宿題の問題集が未提出!その理由は?
目次
※ この記事は境界知能の子をバカにする記事ではありません。
※ 彼は中学の3年間で着実に成長していきます。そして、希望した高校に合格。
※ 特別支援学校の教員を目指すようになります。
1.伝説の男「ヤマシン」とはどんな子?
先日、パソコンのデータを整理していると「ヤマシンのママ①」「ヤマシンのママ②」というフォルダを見つけました。
約10年前に私が作ったフォルダのようです。
私が「ヤマシンのママ①」フォルダを開くと、そこには「夏休みのしおり」をスキャンした画像が入っていました。
その画像を忠実に再現したのが下記の画像です。
なぜ、私が「夏休みのしおり」をスキャンして取っておいたのかお分かりいただけたでしょうか?
ヤマシンは保護者のコメントをお母さんになりすまして書いたのです。
もちろん、スグにバレて私に注意をされました。
2.進学を機に特別支援学級から通常級に移動する子
小学校で特別支援学級に在籍していた子供が、中学校に入学するタイミングで通常級(普通級)に移動する例は少なくありません。
※ 通常級や普通級という表現はあまり好きではありませんが、通称として使わせていただきます。
これは、親御さんが高校への進学を考えてのことです。
制度的には特別支援学級から全日制高校に行くことはできます。
もちろん、全日制高校の試験に合格することが条件となります。
地域によっても少し違いがあります。
私が最初に勤務した都道府県では、特別支援学級から全日制高校に進学する子供が毎年、数人いました。
これは、近隣に特別支援学級の子供を受け入れてくれる高校があったからです。
しかし、2つ目に勤務した都道府県では、特別支援学級から全日制高校への進学はできないことになっていました。
実際、受け入れてくれる高校が無かったのも事実です。
3.数々の奇跡を起こした伝説の男の担任に!
私は特別支援学校の免許も持っています。
そのため、生徒指導主事だけでなく特別支援教育コーディネーターの役職をいただいたことが何度もあります。
(免許はもっているのですが特別支援学級や特別支援学校を担当したことはありません。)
同時に「小学校で特別支援学級に在籍しており中学校から通常級に移動する子」の担任も複数回、行ってきました。
その中でも、たくさんの奇跡を起こし、伝説になった男の子がいます。
それが、山口慎一くん(仮名)、通称ヤマシンです。
4.高校への進学を考え中学入学と同時に通常級へ
ヤマシンは小学校の3年生から6年生まで、特別支援学級に在籍していました。
ただ、中学入学と同時に通常級へ移動してきます。
後に「特別支援学級から通常級に移動した」理由をお母さんに聞くと、その経緯を教えて下さいました。
「小学校の先生から通常級を勧められました。」
「このまま、特別支援学級にいると全日制高校に行けなくなると。」
「また、息子の知能レベルでは特別支援学校への入学も難しいと。」
「小学校の先生と相談した結果、中学から通常級に移動することを決めたんです。」
その都道府県では、特別支援学級から全日制高校に進学することができません。
また、知能的に境界線にいるヤマシンは、特別支援学校に入学できない可能性があるのも確かです。
お母さんはヤマシンの将来を考え、少しでも早く通常級になじめるように、高校へ進学できるように移動を決意したそうです。
5.勉強が苦手だからやらなくていい?
ヤマシンは5教科の勉強が苦手です。
特に数学は大の苦手です。(九九を完璧に覚えていないので仕方ありません。)
私は担任として、通常級に適応するための支援を行います。
「無理しなくていいよ~!」
「分からないのに授業を聞くのは辛いよね~!」
「宿題や勉強はしなくていいよ~!」
などとは、一切、言いませんでした。
もちろん、勉強が苦手であることは分かっています。
私は定期的にヤマシンと一緒に放課後学習を行いました。
※ テスト前になると他の子も放課後学習に参加するようになったことで、ヤマシンのコミュニケーション力も高まりました。
授業でも、先生の言っていることが分からないことが多いでしょう。
しかし、私はヤマシンにこう言いいます。
「授業内容が分からなくてもノートはしっかりとるんだよ!」
「先生の話もしっかり目を見て聞くんだよ!」
「まだ、書いてないのに黒板の字を消す先生がいたら教えてね。」
「先生がその先生にお願いをするから。」
6.苦手でも先生の目を見て話を聞く!ノートを取る!
4月から通常級に代わり緊張もあったでしょう。
それと同時にやる気もあったでしょう。
ヤマシンは私の指示をしっかりと守り、授業中に先生の話を熱心に聞いていました。
そして、ガンバってノートも取っていました。
これらは、高校進学を考えたときに必須の内容と言えます。
なぜなら、いくらテストの点数が悪くても、授業をしっかりと聞き、提出物を出していれば通信票に「1」がつくことはないからです。
(中学1、2年生では「1」をつける学校もありますが、中学3年生で「1」をつける学校はほとんどありません。)
7.テスト当日、宿題の問題集が未提出!
5月の終わりには1学期の中間テストが行われました。
先に結果をお伝えすると順位はダントツのビリです。
ただ、何度も言いますが、これは仕方のないことです。
なぜなら小学校時代に5教科の勉強をしてないからです。
しかし、ヤマシンは私に注意をされることをしてしまいました。
それは、中間テストの日に提出しなければならない5教科の問題集を出さなかったことです。
問題集に対しての理想を言えば、最初に自分で解き、分からないところを調べ、それを理解し、同じミスをしないようにすることが大切でしょう。
しかし、勉強が苦手なヤマシンにそこまでやれとは言いません。
ただ、分からないところは配布されている解答を見て赤ペンで書けば良いのです。
それは誰にでもできることです。
それすら、「面倒」と言ってやらないのであれば注意をしなければなりません。
8.問題集をサボった理由は「分からない」?
テスト当日の放課後。
私はヤマシンを呼び出し問題集について聞きます。
「今日は問題集の提出日だよね!どうして出してないんだい?」
「やってないから家に置いてきた!」
『やってないと堂々と言うのか・・・。ここは強く指導をしなければ!』
「何でやらないんだ!提出日は今日だぞ!」
「え?やらなかった理由?全部、分からないから!」
「チョット見たけど、何にも分からなかった!」
どうやら「分からない」を理由にサボったようです。
9.答えは見てはいけないものと思い込んでいたピュアボーイ
私はヤマシンに強い指導をすることを決めます。
「分からなければ、答えを見ればいいだろ!」
「そして、」
私が言いかけると、ヤマシンは大きな声で驚きの声をあげます。
「えっ~!答えを見ていいの?」
「全部できてから○付けをするんじゃないの?」
「い、いや、あ、あの、分からなかったら答えを見るしかないんじゃない?」
「自分で教科書を調べて答えを見つける?」
「ムリムリ!そんなのムリだよ!」
「じゃあ、答えを見て書くしかないでしょ!」
「そうしなきゃ、提出できないでしょ!」
すると、ここでもヤマシンは大きな声で驚きの声をあげます。
「えっ~!答えを見て書いていいの?」
「それってカンニングじゃないの?」
「それなら、自分で教科書を調べて答えを見つける?」
「ムリムリ!そんなのムリだよ!」
10.全部で40ページ!明日までにやってくるよ!
どうやらヤマシンに、悪気はなかったようです。
「分からないところは答えを見て書くんだよ!」
「もちろん、赤ペンを使ってだよ!」
「それなら出来るよね!いつ提出できる?」
ヤマシンは問題集のページ数を数えています。
「全部で40ページか~!じゃあ、明日までにやってくるよ!」
「明日までにできる?」
「分からないところは答えを見て書けばいいんでしょ!それならできるよ!」
「教科書で調べるなら何日も必要だけど・・・。
「答えを見ていいんでしょ?明日までにやってくるよ!」
11.約束を守り5教科の問題集を提出!
翌日。
ヤマシンは笑顔で私の所にきます。
「先生!約束どおりやってきたよ!」
「そんなに時間はかからなかったよ!」
「教科書を調べてやるのはムリだけど、見ていいからすぐに終わったよ!」
「そっか、分からないときは答えを見ていいんだ~。」
約束をしっかり守ったヤマシンを見ていると、私も嬉しくなりました。
私は5教科、全ての問題集をあずかります。
「おつかれさま!1日、遅れだけどいいでしょう!」
「先生から教科の先生に出しておくね!」
「授業のときに『問題集、遅れてすみません』って言うんだよ!」
「うん。分かった!」
ヤマシンが約束を守ってくれたことを嬉しく感じた私は笑顔で職員室に戻ります。
そして、自分の教科の問題集を確認したところ・・・・・。
12.言われた通りにやるピュアボーイ!
私は、すぐに他の教科の問題集も確認します。
そこには、驚きの光景が・・・・。
5教科の問題集40ページが真っ赤に染まっていたのです。
さすがピュアボーイ・ヤマシンです。(笑)

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