優しい子の善意を「お世話係」として利用しないで!
目次
1.○○ちゃんをお願いね?お世話係って何?
最後に「クラス替え」に関係している「お世話係」についての話をしたいと思います。
先生たちの中には「クラス替え」をするときに「手のかかる子」に対して、その子の「面倒をみてくれる優しい子」を同じクラスに欲しがる先生がいます。
この面倒を見てくれる子を「お世話係(お世話担当)」と言います。
お世話係とは、休み時間や授業中に「手のかかる子」のお世話をする係の事です。もちろん、クラスの係として存在しているわけではありません。優しくて面倒見の良い子を先生たちが勝手に同じクラスに入れこう言うのです。
「○○ちゃんをお願いね!」
お世話係の子どもの気持ちを考える先生はいません。なぜなら、お世話係が優しい子であることを知っているからです。そして、その優しさを利用して自分が楽(らく)を使用と考えているからです。
もし、お世話係の子どもの事を考えている先生であれば、そもそも「お世話係」をやらせませんし、「○○ちゃんをお願いね!」などと声をかけることもありません。
2.周りの気にせずマイペース!自分の世界に入り込む子
ある学校で中学1年生の担任をしたときの話です。
私のクラスには「マイペース(不思議ちゃん)」のユメちゃん(仮名)がいました。(この言い方は好きではありませんが)いわゆる、発達障害のグレーゾーンと言われる子どもです。
ユメちゃんは興味があることに対しては一直線です。当然、周りの事を考えることが出来なくなってしまいます。実際に学校では様々な一直線がありました。
・朝読書の時間、読んでいた本の世界に入りこみ、朝の会が始まっても読み続けている。
・掃除の時間、汚い所をキレイにすることに集中して、教室に戻らず掃除を続けてしまう。
・懇談会の準備で体育館に敷くシートに興味をもち、敷いたり丸めたりを繰り返し周りのジャマとなる。
・通学路の途中にいる犬と仲良くなり1時間おくれて遅刻したり、家に帰る時間が遅くなる。
(親から帰宅していない旨の連絡があり教員が周辺を探すと、楽しそうに犬と遊んでいるユメちゃんを発見しました。)など
逆に苦手な算数の時間は、授業に集中できず常にキョロキョロしています。(笑)
3.理科の実験で集中モード!次の授業に遅れる!
入学してから2週間後。
理科の授業で微生物の観察を行っていた時です。ミジンコを見つけることができた事で、ユメちゃんの集中スイッチがONになります。
ユメちゃんは他の微生物も見つけようと顕微鏡にかぶりつきです。本来、顕微鏡は2人で1台を使用するのですが、集中スイッチが入ったユメちゃんにペアの声は届きません。(ペアの子は先生の顕微鏡を借りて観察をしました。)
ユメちゃん以外の子どもも真剣に微生物の観察をしています。それを見た先生は時間ギリギリまで観察を続けることにします。顕微鏡は片付けず、次の授業で「そのまま使う」事にしたようです。
数分後、授業の終わりを告げるチャイムがなりました。
「顕微鏡はそのままでいいです!」
「プレパラートだけ軽く洗って持ってきて下さい!」
「カバーガラスを割らないように気をつけてね!」
「片付けが終わった子から、次の授業に行って下さい!」
みんなが一斉に片付けを始めます。しかし、先生の声はユメちゃんに届きません。授業が終わっても微生物の観察に集中しています。
5分経っても観察をやめないユメちゃんに理科の先生が声をかけます。
「やる気があるのは良いことだね!」
「でも、次の授業に遅れないようにしようね!」
「急いで片付けをしようね!」
渋々、観察をやめたユメちゃんでしたが、次の授業に急いで行こうとしません。すると、ユメちゃんをズッと待っていたマキちゃん(仮名)が、ユメちゃんの手を引っ張ります。
「ユメちゃん!急がないとダメだよ!」
「次の授業に遅れるよ!」
「さあ!急いで!早く早く!」
4.4年間「ユメちゃんをお願いね!」と言われた子
マキちゃんはとても真面目な女の子です。提出物は丁寧に期限を守って出し、先生や友達、近所の人には笑顔であいさつができる子です。そして、誰にでも優しく、面倒みがとても良い子です。
マキちゃんは小学校3年生のころからズッとユメちゃんと同じクラスです。中学1年でも同じクラスのため5年連続で同じクラスだったようです。小学校の先生からは、毎年、決まった言葉を言われます。
「ユメちゃんをお願いね!」
5.ユメちゃんの代わりに謝るお世話係のマキちゃん
理科の次は担任の私の授業です。
授業開始のチャイムがなったと同時にユメちゃんとマキちゃんは走って教室に戻ってきました。マキちゃんは、全く急ぐ気がないユメちゃんの手を引っ張って戻ってきたのです。
私はユメちゃんとマキちゃんに、ギリギリになった理由を聞きます。すると、マキちゃんは申し訳ないという表情をします。
「ギリギリになってすみません!」
「急いで戻ってきたのですが・・・。」
『どうしてギリギリになったの?』
「ユメちゃんが微生物の観察に夢中になって・・・。」
「間に合うように急いだんですけど・・・。」
「私がもっと早く声をかければ良かったんです!」
「すみませんでした!」
6.声をかけてくれてありがとう!でも、待たなくていいよ!
担任になって2週間が経っていたため、ユメちゃんの行動パターンはわかっています。細かい理由は聞きませんでしたが「ユメちゃんの集中スイッチが入った」「マキちゃんが声をかけても動かなかった」この辺りが理由なのでしょう。
マキちゃんの性格からして、何度も何度もユキちゃんに声をかけたはずです。しかし、集中スイッチの入ったユキちゃんに、その声は届かなかったのでしょう。ユメちゃんが謝るのならともかく、マキちゃんが謝る必要は全くありません。
「ユメちゃんに声をかけてくれてありがとう!」
「先生はうれしいよ!」
「でも、これじゃあマキちゃんが疲れちゃうよね。」
「授業に遅れないように声をかけるのは先生の仕事だからね。」
「まずは自分が遅れないようにしていいからね!」
「ユメちゃんには1回だけ声をかければいいよ!」
「待たないでいいからね!」
「後は先生がやるからさ!」
7.みんなの前で泣き出すマキちゃん
私が声をかけるとマキちゃんは泣き出してしまいました。私が慌てているとクラスの子から野次(?)が飛んできます。
「先生がマキちゃんを泣かした!」
「真面目なマキちゃんを何で泣かすの!」
「女の子を泣かしちゃダメだよ!」
「先生!最低!信じられない!」などなど
慌てた私は自分の身の潔白を証明するためクラスの子に言い訳(?)をします。
「先生が泣かせたわけじゃないし!」
「先生、怒ってないし!」
「先生、何も悪くないし!」
私の動揺している姿を見たマキちゃんはクスクスと笑い始めました。
8.お世話係としての本音を告白!
放課後。マキちゃんは私の所にきて泣いてしまった理由を教えてくれました。
「私はユメちゃんの事は好きです。」
「ユメちゃんに声をかけるのもイヤではありません。」
「でも、声をかけても聞いてくれないことがあります。」
「そんな時はやっぱりイラッとします。」
マキちゃんも人間です。さらには善意でユメちゃんに声をかけてくれているのです。「イラッ」とするのは当然の事でしょう。
「ユメちゃんは好きですが、ユメちゃん専用はちょっと嫌です。」
「私だって、他の友達と話したり、遊んだりしたいんです!」
これも当然のことでしょう。マキちゃんは1人の人間であり、まだ、中学1年生です。ユメちゃんの専用となってはいけません。この状態が続けばマキちゃんの成長や発達、才能を伸ばすことができなくなってしまいます。
「小学校の3年生の時に、先生に『ユメちゃんをお願いね!』と言われました。」
「先生に頼まれたのが嬉しくて、ユメちゃんの事を意識して見るようになりました。」
「もちろん、ユメちゃんの事は好きなので、話をしたり、遊んだりするのはイヤではないです。」
真面目な子や優しい子、面倒見のよい子を「お世話係」にする先生が多いのが現状です。本来は「手のかかる子の支援」も教員の仕事なのですが・・・。
先生に頼まれたことでマキちゃんはユメちゃんの「お世話係」の呪縛にとらわれてしまいました。
さらには、マキちゃんが「お世話係」として優秀だった事も災いとなりました。優秀だったことで「ユメちゃんのお世話係」=「マキちゃん」と先生たちが思ってしまったのです。
そのため、5年連続でユメちゃんとマキちゃんは同じクラスにされてしまったのです。
「私とユメちゃんは5年間、同じクラスです。」
「偶然ではないと思います。」
「多分、先生たちが同じクラスにしたんだと思います。」
「そして、毎年、担任の先生からこう言われてきました。」
『ユメちゃんをお願いね!』
9.お願いされなかったのは今年が初めてです!
勝手にユメちゃんの「お世話係」に任命されたマキちゃんは様々な葛藤に悩まされたことでしょう。
「先生に頼まれた。」
「ユキちゃんの面倒を見なければ。」
「他の子とも遊びたい!」
「ユキちゃんが言うことを聞いてくれない!」
「でも、先生に頼まれたし・・・。」
「ユキちゃんは嫌いじゃないけど・・・。」
小学生がこのような葛藤に悩んでしまったのは、小学校の先生が勝手にマキちゃんを「お世話係」にしてしまったからではないでしょうか?
「担任の先生から『お願い』されなかったのは今年が初めてです!」
「そして、『やらなくていいよ!』と言ってくれたのも先生が初めてです。」
「この言葉で肩の荷がおりたような気がしました。」
「そうしたら、自然と涙が出てきてしまって・・・。」
「先生を困らせてしまってすみませんでした!」
私はマキちゃんに出来る範囲で「お願い」をします。
「ユメちゃんに声をかけてくれるのは助かるよ!」
「これからも『できる範囲』で声をかけてあげて!」
「でも、無理するのはやめてね!」
「マキちゃんが自分の時間を無駄にする必要はないからね!」
「1回、声をかけても、聞いてくれない時は放っておいていいよ!」
「先生がユメちゃんに活を入れるから!(笑)」
10.できる範囲でお世話をしてくれたマキちゃん
マキちゃんは、その後もユメちゃんへの声かけを続けてくれました。私は定期的にマキちゃんに声をかけます。
「ユメちゃんの事を放っておいていいからね!」
すると、マキちゃんは次のように答えます。
「先生!」
「私は出来る範囲でやっているので大丈夫です!」
「授業に遅れそうになったときは、先に行くようにしています!」
「他の友だちと話したいときはソッチに行っています。」
「だから心配しないでいいですよ!」
マキちゃんは自分のできる範囲で「お世話」をしてくれたのです。「お願いね!」の言葉がなくても、「お世話係」でなくても、優しくて真面目なマキちゃんは、友だちであるユキちゃんの面倒を「できる範囲」で見てくれたのです。
11.ユメちゃんママからマキちゃんへの感謝の言葉!
夏休みに入り三者面談が行われました。私は意図的に「マキちゃんの面談」の前を「ユメちゃん面談」にしました。ユメちゃんの親から、マキちゃんに対して何か意見があるかもしれないと考えたからです。
もちろん、「マキちゃんにお世話係をお願いしたい!」と言われても「NO!」と答えるつもりでした。
しかし、ユメちゃんの三者面談は私の予想に反するものでした。面談でユメちゃんのお母さんは「マキちゃんへの感謝」の言葉を何度も何度も口にしたのです。もちろん、お母さんはユメちゃんの特性も理解しています。だからこそ、マキちゃんへの感謝が強かったようです。
「マキちゃんには本当に感謝しています。」
「小学校3年生の時から娘に声をかけてくれて。」
「集中すると無視する悪いクセがあるのに・・・。」
「マキちゃんは、それを気にせず声をかけてくれます。」
「本当にマキちゃんには感謝の言葉しかありません。」
私はユメちゃんのお母さんに、感謝の気持ちを、直接、マキちゃんに伝えてもらいたい旨を伝えます。ただ、マキちゃんは「ユキちゃん専用ではない」こと「お世話係」でもないことは伝えました。当然、担任の私が責任をもって支援や対応を行う事も伝えます。
マキちゃんのお母さんは、授業参観のたびにマキちゃんの所に行き、直接、お礼を言っていました。誕生日やクリスマス、バレンタインデーには、ユキちゃんとお母さんでプレゼントを買ったり、チョコレートをつくったりしてマキちゃんに渡します。
「そこまで感謝しなくてもいいのに。」
「私は普通の事をしているだけです!」
「これからもユキちゃんとは友だちとして仲良くしたいです!」
照れながら言うマキちゃんは、とても輝いていました。
12.チーム学校としてユメちゃんへの支援を開始!
ユメちゃんが物事に集中することは良いことです。しかし、周りの事を無視したり、予定を破ったりするのは認められません。なぜなら、学校は勉強だけでなく集団生活を学ぶ場でもあるからです。
私はユメちゃんが集中して周りが見えなくなったときに行う対応や声かけを決めました。そして、その対応や声かけを、各教科の先生にも伝え、行ってもらうことにしました。
もちろん、ユキちゃんがスグに「切り替え」られるようになったわけではありません。しかし、全ての先生が同じ対応を取ったことで、2学期には先生や仲間が声をかけると、スグに「切り替え」が出来るようになりました。
私はユメちゃんの友人関係の改善にも力を入れました。小学校の4年間は「ユメちゃん」=「マキちゃん」という状態だったのを改善したいと考えたのです。
クラスでは「エンカウンター」や「ライフスキル」など、クラスの人間関係を良好にするプログラムを定期的に行います。また、事前にユメちゃんには行うプログラムについて説明をし、どのように取り組むかを伝えました。
最初はぎこちなかったユメちゃんでしたが、回数を重ねるごとに自然とプログラムを行う事ができるようになりました。また、プログラムをキッカケにマキちゃん以外の友だちとも話すことができるようになりました。
これにより、マキちゃん以外の友だちも声をかけてくれるようになりました。マキちゃん以外の友だちと話すことになれたユメちゃんは、どんどん明るくなっていきました。
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