自分の指導力に自信を持っている担任は・・・
目次
1.職員室の机配置は学年ごと
どの学校でも職員室の机配置は各学年の先生が集まるようになっています。
そして、1番前には校長、教頭、教務主任(主幹教諭)の机が並んでいます。
そこから、1年部教員の机、2年部教員の机、3年部教員の机が並んでいきます。
※ 1年部教員の机が並んでいる場所を「1年部の島」、2年部教員の机が並んでいる場所を「2年部の島」、3年部教員の机が並んでいる場所を「3年部の島」と呼んでいました。
A中学校に勤務して2年目になっていた私は「生徒指導主事」と「2年副主任」「2年担任」を兼務していました。
職員室の席は職員室の真ん中後方で「3年部の島」に近い場所です。
後の出入り口に最も近い場所で先生達がイヤがる場所でした。
2.あるクラスの異変に気づいたベテラン教諭
ある日の朝の事です。
全体の「打ち合わせ」が終わった後、それぞれの学年が「打ち合わせ」を始めます。
すると、3年部の島から「ベテラン教師」の声が聞こえてきます。
「3年A組の様子が気になるんです。」
「おしゃべりが増えてきてるんです。」
「さりげなく内容を聞いてみると、性的な会話や悪口が聞こえてくるんです。」
「ハッキリは聞き取れなかったんですが・・・。」
どうやら、ベテランの先生が「3年A組のチョットした変化」に気づいたようです。
「AさんとBさんとCさんが特に心配なんです。」
「優しく注意すると返事はするのですが・・・。」
「すぐにおしゃべりを再開して、再度、注意をすると・・・。」
「謝ってはくるんですが・・・。」
「態度や表情からは全く反省の色が見えなくて・・・。」
ベテランの先生は最後に次のように仰っていました。
「昔、私のクラスが学級崩壊したときに似ているんです・・・。」
「だから、少し心配になったダケなんですけど・・・。」
3.「私のクラスは学級崩壊しません!」という担任
これに対して3年A組の担任は次のように言っていました。
「大丈夫です!」
「AとBとCの事は分かっています。」
「特にAは親が放任なので家庭生活も学校生活も落ち着かないんです。」
「BとCは頭が悪いので授業に集中できないだけです!」
「また、バカなのでAと一緒になると調子に乗ってしまうんです。」
「でも、悪気はないので大丈夫です。」
※ 子供を「バカ」と呼ぶ事に違和感を感じました。
さらには次のような発言が聞こえてきます。
「心配して下さって、ありがとうございます。」
「ただ、自分のクラスの事は全て把握しています!」
「先生のようにクラスが学級崩壊することはありません!」
「私の授業はしっかりとやっていますし。」
「心配して下さるのは嬉しいのですが・・・。」
「大丈夫ですので心配しないで下さい!」
このように言われてしまったベテランの先生は、次のように仰いました。
「申し訳ありません。」
「私の杞憂だったようです。」
4.自分の指導力に自信を持っている担任
3年A組の担任は勝山先生という中堅の女性教員です。
そんな勝山先生に対して、私は次のような印象を持っています。
「プライドが高い先生だ!」
「確かに指導案(授業案)を作る力はあるけど・・・。」
勝山先生が教員研修で中心授業をやったときの話です。
確かに、研究授業のために作成した指導案(授業案)は、とても素晴らしいものでした。
しかし、指導案(授業案)のような反応をクラスの子供たちがしたかというと・・・。
授業中、子供たちは常に「つまらない」という表情を浮かべていました。
中心授業後の授業研究会では、勝山先生は先手を打って「子供たちの反応が悪かった理由」を最初に力説します。
「前の授業が体育で疲れ切っていた。」
「数日前から体調が悪い子供が増えている。」
「先生達の見学により子供たちは緊張していた。」
「繊細な子供が多いため、普段の力を発揮できなかった。」
「いつもなら、もっと快活に授業を受けている。」など
これにより、他の先生から「子供たちの反応の悪さ」について指摘されることを回避したのです。
ちなみに勝山先生は地域の「教科責任者」をしていました。
ただし、教員の数が少ない教科の担当ですが・・・。
5.ベテランの見る目や勘は正しい!
ベテランの先生は各クラスの副担任をしている優しい女性の先生です。
「以前、クラスを学級崩壊させてしまった。」
このように自分で仰る先生で、学級経営(学級運営)についても、教科指導についても謙虚な先生でした。
私は自分のクラスが「学級崩壊」してしまったことはありませんが、「生徒指導主事」として様々な「学級崩壊」クラスの支援をしてきました。
また、教員時代(カウンセラーとなってから)も「学級崩壊」クラスの保護者の相談をたくさん受けています。
これらの経験から、私は3年A組が「学級崩壊」してしまう可能性が高いと感じました。
6.学級崩壊した過去を振り返るベテラン
私は放課後にベテランの先生から「3年A組」の話を聞くことにしました。
「先生の言っている事は正しいと思います。」
「学級崩壊の最初って『小さいルール破り』から始まるんです!」
「そこで、担任が毅然とした態度で接する事が出来れば学級崩壊しないのですが・・・。」
「ほとんどの場合、『注意するほどじゃないか』と判断して・・・。」
「その結果、子供たちが安易にルールを破るようになって・・・。」
これに対してベテランの先生は、自分の失敗談を踏まえて話をして下さいました。
「そうなんです。」
「私は注意をすることを躊躇ったんです。」
「子供達に嫌われたくなくて・・・。」
「そうしたら、ルールを破る子供が増えていって・・・。」
「最初に注意をしなかった事で、その後の注意がしづらくなって・・・。」
「気がついた時には誰も私の話を聞かなくなっていました。」
「もちろん、注意をしても聞く耳を持ってくれません。」
また、ベテランの先生は次のようにも話してくれました。
「今でも、真面目な子供達に申し訳ない気持ちでいっぱいです。」
「特に学級委員だった子供達には、謝っても謝りきれないと思っています。」
そして、最後に担任の先生について次のように仰っていました。
「勝山先生はシッカリした先生です。」
「お言葉どおり大丈夫なのだと思います。」
「余計な事を言ってしまったと思っています。」
7.保護者から苦情や相談が寄せられ始める
そこから3ヶ月後。
ベテランの先生が心配していた通り3年A組が「荒れ」始めます。
具体的には授業中に「おしゃべりする子供」や「居眠りする子供」が増えたのです。
担当している先生たちの話しだけでなく、数人の保護者からも相談が寄せられ始めます。
それでも、勝山先生は次のように言い続けていました。
「クラスの子供のことは分かっているので大丈夫です!」
「私の授業の時はシッカリやっています。」
※ 勝山先生の授業は週に1~2時間しかないのですが・・・。
「AやB、Cが悪い意味の中心になっているのは分かっています。」
「コチラで対応していますので大丈夫です。」
「学級崩壊する事はないので気にしないで下さい。!」
8.担任に「いじめ」の相談をしたら・・・
校長は勝山先生の言葉を信じ学年部に対応を一任します。
しかし、そこから1ヶ月も経たないうちに、3年A組の子供の保護者がスクールカウンセラーさんに「いじめ」の相談をしました。
「娘が『いじめ』られている。」
「それが原因で不登校になってしまった。」
「学校に行くとA、B、Cから悪口を言われる。」
『何で学校に来てるの?』
『ウザいんだけど。』
『学校に来てもいいけど、私たちの視界に入らないで!』
『泣いてるの?』
『チョー受けるんですけど・・・。』など
「勝山先生に相談をしたのですが・・・。」
『A、B、Cは「いじめたつもりはない」と言っています。』
『実際、あの子たちに悪気はなかったと思います。』
『何も考えずに言っているんだと思います。』
『娘さんが気にしすぎているのではないでしょうか?』
9.加害者の言葉を信じる(?)担任
校長は生徒指導主事の私に「保護者対応」「いじめの被害者対応」「いじめの加害者対応」を命令します。
私はスグに「お母さん」と「娘」さんに「いじめ」の実態について聞きました。
「悪気がない訳ありません!」
「直接、悪口を言われたんです!」
「それまで、何度もコッチを見てヒソヒソ話をしていたんですよ!」
「聞こえる声で『ウザいよね~』と言われたことがあります。」
「主語はありませんでしたが、私を見て言ってました!」
「後で言い訳をするために、名前を言わなかったんだと思います。」
さらに担任の勝山先生については、次のように言っていました。
「勝山先生に相談をしても・・・。」
「A、B、Cに騙される(?)ことは分かっていました。」
「いつも、勝山先生は次のように言っているからです。」
『先生はみんなの事を信じてるからね!』
「どうして、勝山先生はA,B、Cを信じて、私は信じてくれないのでしょう?」
「だから、言っても無駄だとお母さんに言ったんです。」
10.先生は私達を疑うんですか?(加害者)
私は「いじめ加害者」であるA,B、Cの指導を行います。
ただ、私に対しても、A,B、Cは次のように言っていました。
「いじめたつもりはありませ~ん!」
「○○さんが勘違いしているんじゃないですか~。」
「もし、○○さんが悪口だと思ったなら、それは間違っていま~す。」
私が「ウザいよね~」の言葉について聞くと・・・。
「○○さんに言ったわけじゃありませ~ん。」
「その場のノリで言ったダケなので誰に言ったか覚えていませ~ん。」
私が疑って見せると、A、B、Cは予想どおりの返答をします。
「先生は私たちを疑うんですか~?」
「生徒の言葉を疑うんですか~?」
「ショックで学校を休んでしまいそうです~。」
「教師が生徒の言葉を信じなくていいんですか~。」
11.加害者の言葉を信じる?それとも・・・
私はA、B、Cに対して、次のような指導を行いました。
「そっか~。」
「いじめたつもりはないんだね~。」
「○○さんに『ウザい』と言ってないんだね~。」
「分かった!」
「その言葉を信じるね!」
3人は「してやったり」という顔をします。
「ただ、『ウザい』とかは誰に対しても使ってはダメな言葉だよね~。」
「だから2度と学校で使わないでね!」
「後、次からは『いじめたつもりはない』場合でも『いじめ』と認定するからね!」
「実は相手が『いじめ』と思ったら『いじめ』認定をしていいんだ!」
「それで、裁判をした親子もいるんだよ!」
「先生は3人が裁判を起こされて、何百万も払うのを見ていられない!」
「だから、今のうちに注意をしておくね!」
A、B、Cの3人は「えっ?」という顔をしています。
「もう1回、伝えておくね!」
「次からは相手が『いじめ』と言ったら、理由や気持ちは一切きかないからね!」
「スグに親を呼ぶ対応を取るからね!」
「もちろん、今回の事も親に伝えておくからね!」
12.「いじめ」が再発しないようにする支援!
それから、毎日、私はA、B、Cに声をかけるために、定期的に3年A組の教室に行きました。
監視の意味もありますが、それ以上に「良い状態を継続」するためでもあります。
「今日は悪い言葉は使ってない?」
「お~。」
「ちゃんと意識をしてるんだね!」
「3人はシッカリしてるね~!」
「これなら、もう誰かにイヤな思いをさせることはないね!」
実際、3人の「悪い態度」は日に日に少なくなっていきました。
私は最初の2週間は毎日、その後の2週間は2日に1回、その後の2週間は週に1回と声をかけ続けていきました。
当然ですが、私の確認が入るため3人は「悪い態度」をとらないようにします。
ただ、途中からは私に「褒められる事」や「話す事」が楽しくなってきたようです。
実際、指導をしてから2週間が経った頃、私と3人は好きな「歌い手」さんの話で盛り上がっていたのですから。
13.えっ?出世して教育委員会に異動?
クラスの「いじめ」や「学級崩壊」が改善した後も、勝山先生は次のように言っていました。
「クラスの子供の事は分かっていました。」
「特にAとBとCの事は分かっていました。」
「3人とも悪気はないので大丈夫だと思っていました。」
「授業ではシッカリとやっていましたし!」
「私のクラスが学級崩壊するはずがないんです!」
「○○さんも『いじめ』られていないと分かったのでしょう。」
「私は子供の事を信じていました!」
「それが子供たちに伝わったんだと思います。」
良いのか悪いのか勝山先生は「前向きな」先生だと言う事が分かりました。
翌年、勝山先生は他の学校に異動となり、さらに数年後には「○○教科の指導主事」として教育委員会へ異動となります。(出世です!)
まあ、得意な指導案(授業案)の書き方を教える仕事に就けたので、良かったのではないでしょうか?
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