発達障害を疑う前に、自分の授業を疑え!
目次
- 発達障害を疑う前に、自分の授業を疑え!
- 1.学級崩壊を発達障害のせいにする学校
- 2.ADHDの傾向はあるけど・・・・
- 3.教師の授業力(指導力)にも問題があるのでは?
- 4.問題を解き終わった子が苦手な子に教えるシステム
- 5.それぞれの指導法法にはメリットとデメリットがある
- 6.問題を教えずにおしゃべりを始める子どもたち
- 7.大地くんばかりが担任から注意をされる!
- 8.イライラする大地くんと回りで騒ぐクラスメイト
- 9.大地くんがキッカケではないことでも怒られるのは?
- 10.私は悪くない!あの子が発達障害だから!(担任)
- 11.薬を飲ませましょう!(スクールカウンセラー)
- 12.授業改善の提案をするも・・・
- 13.前の学校では上手くいってました!(担任)
- 14.大地くんママに病院での検査を勧めると・・・
1.学級崩壊を発達障害のせいにする学校
※ 同じような事例の相談を、毎年、いただきます。
ある中学校で特別支援コーディネーターをしていたときの話です。
私は校長に呼ばれこう言われます。
「1年1組が学級崩壊になりそうだ!」
「大地くん(仮名)がクラスを悪い方向に導いている。」
「どうやら、大地くんは発達障害のようだ!」
「スクールカウンセラーと一緒に授業を見てくれ!」
私はスクールカウンセラーと一緒に1年1組の国語の授業を見にいきました。
2.ADHDの傾向はあるけど・・・・
スクールカウンセラーと一緒に1年1組の授業を見ていると、気になる子どもが2人いることに気づきます。
さりげなく名前を確認すると、気になる子の1人が大地くんであることが分かりました。
確かに落ち着きがないようには感じます。
注意も散漫で常にキョロキョロしているのです。
しかし、担任の先生が問題を解くよう指示を出すと、大地くんは何も言わず問題に取りかかりました。
ただ、大地くんには難しい問題だったようで、すぐに諦めて問題を解くのをやめてしまいます。
問題を解くことが出来ないと思った大地くんは、席を離れて友達の所に歩いていきました。
3.教師の授業力(指導力)にも問題があるのでは?
これをみたスクールカウンセラーは私に耳打ちしました。
「スグに飽きてしまう!集中できない!動き出す!」
「大地くんは完全にADHDですね!」
大地くんがADHD傾向であるという意見に対しては反対はありません。
私も同じように感じたからです。
しかし、教員を20年(当時)してきた私には、大地くんの行動以上に気になることがありました。
それは、担任の授業進行や声かけ、机間支援の「未熟」さです。
4.問題を解き終わった子が苦手な子に教えるシステム
最初に担任は黒板を使い問題の解き方を説明します。
そして、その後の指示を出します。
「問題を出来た人は先生の所に持ってきて!」
「先生が○付けをするからね!」
子どもたちは急いで問題に取りかかります。
当然、大地くんも問題に取りかかりました。
勉強が得意な子がスグに問題を解き終わり、担任のところにノートを持っていきます。
先生は○付けをして、その子を褒めています。
問題を解き終わった子どもたちは、ぞくぞくと先生のところに並んでいきます。
すると、先生がこのような言葉を発します。
「合格した子は分からない子に教えてあげて!」
5.それぞれの指導法法にはメリットとデメリットがある
これは、小学校や中学校で良く見られる授業の光景です。
先に問題を解いた子が、問題が分からない子どもに教えるのです。
このような指導方法にはメリットもあればデメリットもあります。
どちらにしても、この指導方法は「落ち着いているクラス」や「子ども同士の仲が良いクラス」で効果を発揮する指導方法です。
逆に「荒れているクラス」や「スクールカーストがあるクラス」では、デメリットの方が多くなってしまいます。
1年1組は学級崩壊一歩手前のクラスです。
案の定、この指導補方法によるデメリットの方が多くなっていたのです。
6.問題を教えずにおしゃべりを始める子どもたち
合格した子は、仲の良い友達のところに行きます。
そして、まだ、問題を解き終わっていない友達に問題を教え始めました。
しかし、大地くんのところには誰も教えに来てくれません。
これでは、大地くんが永遠に問題を解き終えることはないでしょう。
合格した子が増えてくると、次のデメリットが生じます。
合格した子が、仲の良い友達のところに行くのです。
ただ、その友達も合格をしています。
そうです。問題を教えに行くのではなく、おしゃべりをしにいくのです。
大地くんが、問題を解き終わっていないのに席を立ったのはこの時です。
クラスの1/3の子どもが合格をもらい出歩いていたときなのです。
7.大地くんばかりが担任から注意をされる!
クラスの半分以上が出歩いて、問題を教えている(しゃべっている)状態になりました。
出歩いておしゃべりをしているのは大地くんだけではありません。
しかし、先生は大地くんを真っ先に注意します。
「大地くん!」
「あなたは、まだ、合格してないでしょ!」
「何で、出歩いてるの!」
「席に戻って、問題をやりなさい!」
大地くんは、素直に席に戻り問題を解こうとします。
しかし、答えがわからない大地くんはまた出歩いてしまいます。
ただ、冷静に回りを見てみると、大地くん以外にも合格をしていないのに出歩いている子が何人もいます。
それでも、他の同じような子は注意をされず、大地くんだけが注意をされます。
「大地くん!何度言ったらわかるの!」
「席に戻って、問題をやりなさい!」
8.イライラする大地くんと回りで騒ぐクラスメイト
大地くんは席に戻り机に突っ伏してしまいました。
表情からはイライラが伝わってきます。
私の予想ですが、大地くんはこう思っていたのではないでしょうか?
『何で、俺ばっかり注意されるんだ!』
『俺以外にも出歩いている子はいるのに!』
私はクラス全体を見てみます。
すると、黒板の磁石を勝手に持ってきて、いたずらをしている子。
電子黒板を勝手にいじっている子。
出歩いておしゃべりをしている子。
自分の席に座っているのは、注意をされてイライラしている大地くんと数人の女の子だけです。
9.大地くんがキッカケではないことでも怒られるのは?
先生のところに並んでいた子どもがいなくなりました。
すると、先生はまた授業をはじめます。
当然ですが、大地くんの授業意欲はなくなっています。
その後、国語の授業で大地くんは5回ほど注意をされました。
確かに、「大地くんが怒られて当然」という行動が2回ありました。
しかし、残りの3回の行動は「他の子が先に出歩いた」「他の子がおしゃべりを始めた」「他の子がヒソヒソ話を始めた」ことがキッカケです。
もちろん、そのキッカケに乗ってしまい、大地くんが一緒に出歩いたり、騒いだり、ヒソヒソ話をしたのは事実です。
しかし、担任の先生が怒るのは大地くんだけです。
「大地くん!何で授業をちゃんと受けないの!」
「いい加減にしなさい!」
「今は休み時間ではありません!」
一緒に遊んでいた子を先に怒ったり、一緒に怒ったりすればいいのですが・・・。
怒られるのは大地くんだけでした。
10.私は悪くない!あの子が発達障害だから!(担任)
大地くんは授業に参加しようとしていました。
しかし、授業の内容が分からなくなってしまい、やる気をなくしてしまったのです。
本来であれば、教師が上手に授業を行うことで大地くんは授業に参加できたはずです。
担任が上手に支援を続ければ・・・・。
ADHDの特徴を「得意」と思うことができれば・・・。
しかし、担任は大地くんの「何にでも興味を持つ」という部分を「悪い」と決めつけました。
「授業に集中しない!」
「自分勝手な行動をとる!」
「説明の途中に口を挟む!」
「授業中に出歩く!」など
担任が自分の教科である国語に興味を持たせることが出来ていれば、授業の内容に対する「つぶやき」が多く出るようになるのに・・・。
そして、最終的にこのような結論に達します。
「どうして、あの子は言うことを聞かないの?」
「なぜ、他の子と同じ事ができないの?」
「私は何も悪くない!」
「あの子が発達障害だから授業が上手くいかないんだ!」
11.薬を飲ませましょう!(スクールカウンセラー)
授業参観後、校長、担任、学年主任、特別支援コーディネーター(私)、スクールカウンセラーでケース会議を行いました。
「大地くんは、どうでしたか?」
「やっぱり発達障害ですよね!」
担任の問いにスクールカウンセラーが答えます。
「あの子は発達障害です!」
「完全にADHDでしょう!」
「だから出歩いたり、しゃべったりしてしまうんです!」
「まずは病院で検査をしてもらいましょう!」
「そして、薬を処方してもらいましょう!」
「もらった薬を飲めば、落ち着くでしょう!」
このことばに担任は笑顔で答えます。
「やっぱり!そうですよね~!」
「私もそう思っていたんです!」
「だから言うことを聞かないんですよね!」
「話を理解できないってことですよね~!」
「発達障害だから!」
12.授業改善の提案をするも・・・
「ちょっと待って下さい!」
「病院とか薬とか言う前に授業を工夫してみませんか?」
私の意見に対して校長が質問をしてきます。
「具体的に、どのような工夫をするんですか?」
そこで、私は授業の改善点を伝えます。
① 大地くんに勉強の個別指導を行う
大地くんは「勉強をがんばりたい」という気持ちがあります。
授業中の様子を見ると、分からないところを先生に教えてもらいたいという気持ちがあるように見えました。
もしかしたら、「友達には教えてもらいたくない!」というプライドがあるのかもしれません。
担任が個別指導を行うことで大地くんとの関係を良くすることが出来ます。
さらには、褒める場も作ることができるため、大地くんの担任への信頼が高まり、授業態度の改善にも効果があると思われたのです。
② 合格をもらった子が歩き回るのはやめる
合格をもらった子は「終わっていない友達に教えにいく」ことになっています。
しかし、現状はこの指導法により授業はざわつき、大地くんを指導する回数が増えています。
また、実際に「終わっていない友達に教えている子」はほとんどいないのが現状です。
逆に出歩いて「おしゃべり」や「いたずら」をしている子がほとんどです。
それならば理想を追い求めるのはやめ、この指導方法は封印するべきです。
ADHDの傾向がある大地くんは、回りの子が出歩いていると気が散ってしまうのです。
当然、一緒になって出歩いたり、しゃべったりする可能性は高まってしまいます。
③ 教え合うなら前後左右の子に限定する
担任として「教え合い学習」を大切と思うのであれば、他の方法を考えるといいでしょう。
例えば、教えていいのは「前後左右の友達」に限定するなどはどうでしょう?
出歩くことは禁止とすることでクラスが落ち着くとともに、「教え合い学習」による知識の理解も深まります。
もちろん、クラスが落ち着いてきたら、少しずつ「席を立って教えてもいい」とルールを緩和してもいいと思います。
こうすれば、今の指導方法より、スムーズに担任の思いを実現できるはずです。
④ 問題合格後にやるべき課題を伝えておく
合格した子は「教える」という大義をもって、堂々とおしゃべりをしています。
これでは、授業の規律が守られません。
おしゃべりに夢中になるため、その後の授業でもおしゃべりが続いてしまう可能性もあります。
問題合格後にやるべき課題やプリントを用意し、明確にするのはどうでしょう?
子どもたちはそれに真剣に取りくむのではないでしょうか?
少し難しい問題のプリントを用意するのがオススメです。
そのような問題であれば、友達との「教え合い学習」が活発になると思うのですが。
もちろん、問題合格後は読書や宿題を「静か」に行うというルールもオススメです。
13.前の学校では上手くいってました!(担任)
私は授業の改善方法を具体的にお伝えしました。
しかし、この提案は担任の癇に障ったようです。
「前の学校では、このやり方で上手くいっていました!」
「大地くんがいるから、上手くいかないだけです!」
「あの子は発達障害だから、私のやり方についてこれないんです!」
スクールカウンセラーもこう言います。
「まずは病院で検査をしてもらったほうがいいと思います。」
「薬を飲めば多動を抑えることが出来ます!」
「親御さんに病院を勧めた方がいいと思います。」
最終的に校長の判断で、担任とスクールカウンセラーの意見が採用されます。
14.大地くんママに病院での検査を勧めると・・・
その後、学年主任が大地くんママに「病院での検査」を勧めると、大地くんママはこのように言ってきたそうです。
「確かにADHDの傾向はあるかもしれません!」
「でも、小学校の時はしっかり授業を受けていました!」
「本人は担任が嫌いと言っています!」
「担任の対応が悪いんじゃないですか?」
「専門家であるスクールカウンセラーに相談をさせて下さい!」
相談を受けたスクールカウンセラーは、大地くんママの圧力に屈したのでしょうか?
ケース会議とは反対のことを大地くんママに伝えてしまいます。
「小学校のときは普通に出来ていたんですね。」
「それでは、大地くんに検査は必要ないかもしれませんね。」
「私から授業改善を学校に伝えておきますね。」
「検査についても保留でいいと思います。」
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